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和歌山地方裁判所 昭和24年(行)12号 判決

原告

湯川伴藏

被告

和歌山県知事

主文

被告が昭和二十三年八月頃湯川小平を名宛人として原告所有の和歌山縣日高郡湯川村大字丸山六百十二番宅地百五十坪、同所六百十三番宅地十八坪九合七勺同所六百十三番地の内一号宅地六坪について湯川伊藤に買收令書を交付してなした買收処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

請求の趣旨

主文同旨

事実

原告訴訟代理人は、請求原因として、

原告は日本にその国籍を有するものであつて、主文掲記の宅地は何れも原告先代湯川小平の所有であつたところ昭和四年十月一日同人の死亡により原告が相続によりその所有権を所得したものである。ところが、原告の異母弟にあたる訴外湯川伊藤は右宅地を自作農創設特別措置法(以下自作法と略記する)第十五條により湯川村農地委員会に買收申請をなし、同委員会はこれを容れて右宅地について買收計画を立て、被告はこれに基いて昭和二十三年八月頃買收令書を前記湯川伊藤に交付した。しかしながら、これら一連の買收手続には何れも既に昭和四年に死亡している湯川小平を本件宅地の所有者としており買收令書も亦小平を名宛人としている。斯くの如く買收計画当初より生存しない死亡者を名宛人として本件買收手続が行われたものであるから被告の買收処分も無効たるを免れない。仍てこれが確認を求めるため本訴に及んだ次第である、と陳述し、被告の答弁に対して、自作法第十一條は買收手続開始の当初に於て被買收物件について正当な権利者であつた者が買收手続の開始後に変動した場合に新権利者に対しても当該買收手続の効力が及ぶことを定めた便宜的規定であつて、本件の如く当初より死者を名宛人として為された場合にはその適用がないと述べた。

被告指定訴訟代理人は請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするという判決を求め答弁として、原告が日本にその国籍を有すること、本件宅地が何れも原告の所有に係ること、本件買收計画が訴外湯川伊藤の買收申請に基いて湯川村農地委員会によつて立てられたこと、買收計画に本件宅地の所有者を湯川小平と記載しているが湯川小平は夙に死亡しており原告がその相続人となつていたものであること、被告の買收令書の名宛人が湯川小平となつておりその令書を湯川伊藤に交付したことは何れも認めるしかしながら湯川村農地委員会は本件宅地の土地台帳の名義人が湯川小平となつていたからこれに基いて買收計画を樹立したのであり、又自作法第十一條によれば買收手続は所有者の承継人に対してもその効力を有するから小平の相続人である原告に対しても当然及ぶものであつて被告の本件買收処分には何等の違法はないと陳述した。

理由

原告が日本にその國籍を有するものであつて、本件宅地がもと原告の先代湯川小平の所有に属していたところ湯川村農地委員会の本件買收計画樹立当時には小平は夙に死亡し原告がその相続人として本件宅地を所有していたものであること、同委員会は訴外湯川伊藤の買收申請によつて本件宅地を自作法第十五條による宅地として買收計画を定めその買收計画には当時死亡していた湯川小平を所有者として記載し被告の買收令書の名宛人も湯川小平となつており、その令書を訴外湯川伊藤に交付したものであることは当事者間に爭がない。そこで既に昭和四年に死亡していた小平を所有者として樹立した本件買收計画並びにそれに基いて同人を名宛人とした買收処分の効力について考えるに、死亡者は公法たると私法たるとを問わず権利義務の主体となり得ない。被告は本件宅地が土地台帳上小平名義なることを主張するが自作法第十五條第二項により準用される同法第十條は宅地の面積については土地台帳に登録した面積によることを定めたにとゞまり、又自作法第十一條は自作法による被買收物件について一連の買收手続中当初は被買收物件について正当な権利者であつた者が手続中に一般承継又は特定承継により被買收物件について権利者を異にするに至つた場合に事前の買收手続の効力が新権利者に対しても有効であることを定めて一連の買收手続の紛糾をさけた便宜的規定であつて、本件の如く買收手続当時既に死亡して居た者に対して爲された場合にまでその適用があるものとは解し得ない。從つて被告の本件買收処分は無効であるといわねばならない。よつて原告の請求を相当と認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(井関 河野 林)

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